
デジタル黎明期のプロ機材選択
1990年代初頭は、アナログからデジタルへの移行期。この時代のトッププロがどのような機材を選択し、どうセッティングしていたのか。イングヴェイ・マルムスティーンの1990年当時の機材構成から、プロフェッショナルなサウンドメイキングの真髄を探ります。
関連記事:イングヴェイの脱力ピッキング技術では、この機材から生み出される音を最大限に活かすテクニックを解説しています。
ワイヤレスシステム:自由なステージパフォーマンスの要
SAMSON製ワイヤレス

| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| メーカー | SAMSON |
| トランスミッター保護 | スポンジ+銀色テープで補強 |
| 使用目的 | ステージでの自由な動き確保 |
| 時代背景 | 1990年代のワイヤレス技術初期 |
当時の工夫: トランスミッターをスポンジで包み、銀色のテープで保護するという独自の方法は、激しいステージアクションから機材を守るための実践的な対策でした。
ボブ・ブラッドショウシステム:プロ仕様ラック構成の金字塔
Custom Audio Electronics(CAE)システムの概要
ボブ・ブラッドショウがデザインしたこのシステムは、1980-90年代のハードロックギタリストにとって「ステータスシンボル」でした。
システムの基本機能:
- ラックマウントエフェクターの一括管理
- フットスイッチによるオン/オフ制御
- 4つのプリセット切り替え
- ノイズレスな音質管理
なぜプロが選んだのか:
- 高速で確実なエフェクト切り替え
- ライブでのトラブルリスク最小化
- 音質劣化の徹底的な排除
- 再現性の高いサウンド管理

JIM DUNLOP 41C YNGWIE MALMSTEEN WH 2.00×12枚
ラック機材の詳細構成
デジタル・ディレイとコーラス
| 機材名 | 台数 | 用途 |
|---|---|---|
| KORG SDD-1000 | 2台 | ディレイ+プリアンプとして使用 |
| KORG SDD-1200 | 1台 | コーラス専用 |
| KORG SDD-2000 | 1台 | 予備機(バックアップ) |
| Digital Voice Processor DVP-1 | 1台 | ギターソロ用特殊効果 |
KORG SDD-1000の活用法: この機材は単なるディレイではなく、プリアンプとしても機能。イングヴェイの音色形成に重要な役割を果たしています。
サポート機材
| 機材名 | 機能 | 設置理由 |
|---|---|---|
| FURMAN PL-8 | パワーコンディショナー+ライト | 暗いステージでの視認性確保 |
| Rocktron HUSH IIC | ノイズリダクション | ラックシステムのノイズ除去 |
ノイズ対策の重要性: ラックシステムでは、長いケーブルや複数の機材接続によりノイズが発生しやすい。HUSH IICは、この問題を解決する必須アイテムでした。
エフェクター繋ぎ方:信号の流れを完全理解
基本的なシグナルチェーン
ギター(Fender Stratocaster)
↓
ワイヤレストランスミッター(SAMSON)
↓
【ステージフロア】
↓
クライベイビー Wah(Jim Dunlop)
↓
【ラックシステム】
↓
DOD Overdrive/Preamp 250(イエローボディ第2世代)
↓
KORG SDD-1000(ディレイ1台目)
↓
KORG SDD-1000(ディレイ2台目)
↓
KORG SDD-1200(コーラス)
↓
Rocktron HUSH IIC(ノイズリダクション)
↓
【ステージフロア】
↓
Roland DC-10(アナログディレイ)※ソロ時のみ
↓
Marshall 50W Mark II ヘッド(3台リンク接続)
↓
Marshall キャビネット
接続のポイント:
- 歪み系は最初:DOD 250でベースとなる歪みを作る
- モジュレーション系は中間:ディレイとコーラスで空間系を構築
- ノイズ除去は最後:HUSH IICで不要ノイズをカット
- アンプは最終段:真空管の自然な歪みを活用
ステージ上のフロアエフェクター
アナログ・ディレイ:Roland DC-10
“名器”として知られる理由:
- テープエコー特有の温かみのある音質
- デジタルでは再現困難な独特の劣化音
- ギターソロでの効果音的使用
使用シーン: アルカトラス時代から愛用しており、ギターソロでの「ヴァイオリン奏法」時に特徴的な効果を発揮。デジタル全盛期にあえてアナログを選ぶプロのこだわりです。
ペダル・シンセサイザー:Moog Taurus
特徴:
- 足で演奏するベースシンセサイザー
- ヴァイオリン奏法との組み合わせ
- 独特な低音の追加
ライブでの活用: ギターソロタイムで、Taurusの重低音とギターの高音を組み合わせることで、オーケストラのような壮大なサウンドを実現。
クライベイビー Wah:Jim Dunlop
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| モデル | Jim Dunlop Cry Baby |
| 改造 | ストック(無改造) |
| 使用頻度 | 楽曲の特定パートで使用 |
DOD Overdrive/Preamp 250:歪みの源泉
イエローボディの謎
確認できる情報:
- グレイボディではなく、イエローボディを使用
- 第2世代(1980年代モデル)の可能性が高い
- リイシューモデルとの判別は困難
仕様詳細:
| 項目 | 設定値(推定) |
|---|---|
| LEVEL | 7-8(やや高め) |
| GAIN | 4-5(中程度) |
| 役割 | マーシャルアンプの歪みをブースト |
音作りでの位置づけ: メインの歪みはマーシャルアンプで作り、DOD 250は「歪みの補助」「音圧の追加」として機能。プリアンプとしても作用します。

マーシャルアンプ:50W Mark IIの3台リンク
使用アンプの詳細仕様
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| メイン | Marshall 50W Mark II(3ピンスイッチ初期型) |
| サブ1 | Marshall 50W Mark II(2ピンスイッチ) |
| サブ2 | Marshall 50W Mark II(2ピンスイッチ) |
| 接続方法 | 3台リンク接続 |
| 改造 | 真空管交換のみ(本人談) |
“リンク接続”の技術解説
リンク接続とは: マーシャルアンプの4つのインプット(チャンネルI:High/Low、チャンネルII:High/Low)のうち、「チャンネルI Low」と「チャンネルII High」をケーブルで接続する技法。
音響効果:
- 音圧の増加:2つのチャンネルが同時に駆動
- 倍音成分の増加:より複雑で豊かなトーン
- サステインの向上:音の伸びが改善
3台リンクの狙い:
- ステレオ感の創出
- さらなる音圧とパワー感
- ステージ全体への音の拡散
キャビネットとスピーカー
推定仕様:
- Marshall標準キャビネット(4×12)
- スピーカー:Celestion(ストック)
- 裏蓋:閉じた状態(密閉型)
セッティングの特徴: アンプヘッドの裏蓋が開放され、スイッチ類が増設されているように見えるが、本人は「真空管以外手を加えていない」と発言。おそらく購入時からの状態と思われます。
アンプセッティング推奨値
Marshall 50W Mark II 基本設定
| パラメーター | 推奨値 | 解説 |
|---|---|---|
| Presence | 7-8 | 高域の輝きを強調 |
| Bass | 5-6 | 低音は控えめ |
| Middle | 3-4 | ミッドをカットし抜けを良く |
| Treble | 8-9 | 高音を際立たせる |
| Volume | 7以上 | 真空管の自然な歪みを引き出す |
音作りの哲学: イングヴェイのサウンドは「ミッドスクープ」が特徴。中域を削り、高域と低域を強調することで、クリアで輝きのあるトーンを実現しています。
セッティング実践ガイド
自宅での再現方法
予算別セッティング:
エントリーレベル(〜10万円)
- ギター:Squier Stratocaster
- エフェクター:BOSS SD-1(DOD 250代替)
- アンプ:Marshall MG50(デジタルモデリング)
- ディレイ:BOSS DD-8
中級レベル(10〜30万円)
- ギター:Fender Japan Stratocaster
- エフェクター:DOD 250(リイシュー)
- アンプ:Marshall DSL40C
- ディレイ:MXR Carbon Copy
上級レベル(30万円〜)
- ギター:Fender USA Stratocaster
- ラックシステム:CAE 3+ SE
- アンプ:Marshall JCM800 2203
- マルチエフェクター:TC Electronic G-Major
エフェクター繋ぎ方の注意点
シールドケーブルの重要性:
- 長さ:3m以内が理想(ノイズ防止)
- 品質:カナレやモガミなど高品質品を選択
- パッチケーブル:ラック内は短く、高品質なものを
電源管理:
- パワーコンディショナーは必須
- エフェクター用とアンプ用の電源を分離
- アース(グランド)ループに注意
時代背景:1990年代の機材トレンド
デジタル vs アナログの過渡期
1990年代の特徴:
- デジタル機材が一般化し始めた時期
- プロでもアナログとデジタルを併用
- ラックシステムがステータスシンボル
イングヴェイの選択: デジタルの利便性(KORG SDD)を活用しつつ、アナログの温かみ(Roland DC-10)も残す。この「ハイブリッド思考」が、独自のサウンドを生み出しました。
よくある質問(FAQ)
Q: ボブ・ブラッドショウシステムは現在でも入手可能ですか? A: Custom Audio Electronics(CAE)は現在も営業していますが、受注生産のため納期は長期化する傾向があります。代替品としては、BOSS ES-8やFractal Audio FC-12などのMIDIコントローラーが選択肢です。
Q: DOD 250のイエローボディとグレイボディの違いは? A: 初期(1970年代)がグレイボディ、第2世代(1980年代)がイエローボディです。音質的には大きな違いはありませんが、イエローボディの方がやや明るい音色とされています。
Q: マーシャルアンプのリンク接続は、どんなアンプでもできますか? A: チャンネルIとチャンネルIIが独立した入力を持つマーシャルアンプ(JCM800、JTM45など)で可能です。現代の単チャンネルアンプでは使えません。
Q: KORG SDD-1000は現在の価格でどのくらいですか? A: 中古市場で5〜10万円程度。生産終了品のため、状態の良い個体は高値で取引されています。
Q: 自宅でイングヴェイサウンドを再現するには? A: 最低限、歪みエフェクター(DOD 250系)、ディレイ、マーシャル系アンプがあれば基本は再現可能です。重要なのは、ミッドをカットしたEQセッティングです。
まとめ:プロフェッショナル機材選択の本質
イングヴェイ・マルムスティーンの1990年代機材構成から学べること:
- システムの信頼性:ラックシステムによる安定性確保
- ハイブリッド思考:デジタルとアナログの最適な組み合わせ
- 音質へのこだわり:ノイズ対策の徹底
- シンプルな歪み:複雑なエフェクトより、アンプの基本性能重視
- エフェクター繋ぎ方の論理性:信号の流れを考慮した配置
機材は手段であり、目的ではありません。イングヴェイの機材選択は、「どうすれば最高のサウンドが得られるか」という明確な目的に基づいています。
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筆者プロフィール: 90年代にライブハウスツアーを経験。当時のプロ機材動向をリアルタイムで目撃し、自身もラックシステムを使用していた経験から、実践的な機材情報を提供しています。
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