
「どうすればあんなに速く弾けるのか」——90年代にライブハウスでギターを弾いていた私が、最も長く問い続けてきた問いのひとつです。
イングヴェイ・マルムスティーンの速さは、単純な反復練習では到達できない。あの速さには、物理的に合理的な仕組みがあります。それを「脱力」という一言で片付けていた時期が私にも長くありましたが、実際には前腕の回転運動と下向きピックスラントの組み合わせという、非常に具体的なメカニズムが存在します。
元バンドマンの目線で、イングヴェイのピッキングを徹底的に解剖します。機材の完全リストも併せて整理しました。
イングヴェイのピッキングはなぜ速いのか?——「回転運動」という答え
多くのギタリストは「イングヴェイは速いオルタネイトピッキングをしている」と思っています。正確ではありません。イングヴェイが使っているのは前腕の回転運動(ローテーショナルピッキング)です。
Troy Gradyの「Cracking the Code」分析が明らかにしたように、イングヴェイのピッキングハンドはブリッジに右掌の側面を置いた状態で、前腕を内外に回転させることでピッキングを生み出しています。ダウンストロークで手首が内側に回転し、アップストロークで外側に戻る。この運動は肘から先の前腕全体が参加する大きな動きであり、手首の上下運動より疲れにくく、高速で安定します。
| ピッキング方式 | 動作の軸 | 特徴 |
|---|---|---|
| 一般的なオルタネイト | 手首の上下運動 | 均一でパーカッシブ。ポール・ギルバート・ペトルーシ型 |
| イングヴェイ式(回転運動) | 前腕の回転(内旋・外旋) | 流動的・カスケード感あり。下向きスラント固定 |
下向きピックスラントとは何か——弦移動の秘密
イングヴェイのもう一つの核心がダウンワード・ピックスラント(下向きの傾き)です。ピックが弦に対して下向きの角度を保った状態で演奏する。これはRandy Rhoads・Steve Vai・Eric Johnsonらも共有するアプローチで、下向きスラントのギタリストに共通する特徴があります。
下向きスラントでは、アップストロークで弦の「外」に抜けます(エスケープする)。この「エスケープするアップストローク」が弦移動のタイミングとなるため、イングヴェイのオルタネイトピッキングフレーズはほぼすべてアップストロークの後に弦移動するよう設計されています。
90年代に私がイングヴェイのフレーズを必死にコピーしていたとき、どうしても「流れ」が出なかった理由がここにあります。オルタネイトピッキングで弦移動のタイミングを考えずに弾いていたから。イングヴェイのフレーズはこのメカニズムに合わせて設計されており、そこから外れると途端に詰まった感じになります。
実際に練習するとき——3つの実装ポイント
① 右掌の置き場所を固定する
ブリッジに右掌の小指側(ピンキーエッジ)を軽く置き、そこを支点として前腕を回転させます。浮かせたまま弾くのは回転運動の安定を妨げます。
② ピックは1.5mmのDelrinを使う
イングヴェイ本人が使用しているのはDunlop YJM Custom Delrin 1.5mm(ホワイト)。非常に硬く、しなりがほぼゼロ。イングヴェイ自身が「とても硬く、Dunlopが自分の名前を入れて白いカラーに変えたもの」と説明しています。硬いピックが前腕の回転エネルギーを効率よく弦に伝えます。
③ ビブラートは「広く・ゆっくり」
多くのプレイヤーが見落とすのは、イングヴェイのビブラートが広くゆっくりしており、神経質な細かいフラッターではないという点です。BPM60の四分音符のパルスに合わせてビブラートを練習することで、コントロールが身につきます。速さより「深さ」を意識してください。
スキャロップド指板——なぜイングヴェイはこれを選ぶのか
イングヴェイのギターの最大の特徴のひとつがスキャロップド指板(フレット間の木材を削り取った指板)です。弦を押さえる際に木材と指が接触しないため、バイオリンのような振動豊かなビブラートが可能になり、ネオクラシカルスタイルに不可欠な要素となっています。
ただし注意点もあります。スキャロップド指板への適応には多くのプレイヤーが3〜6ヶ月を要し、最初の1ヶ月は60%が大きな困難を感じるというデータがあります。押さえる力の加減が通常の指板と全く異なるため、慣れるまで音程が不安定になりやすい。
90年代に私もスキャロップド指板を試したことがあります。最初の1週間は全音程が不安定になって絶望しました。でもそれを乗り越えた先に「弦が鳴っている」感覚があった。あの感触は今でも忘れていません。
イングヴェイ・マルムスティーン 完全機材リスト【2026年最新】
| カテゴリ | 機材 | 詳細 |
|---|---|---|
| メインギター | 1972年製Fender Stratocaster「Duck/Play Loud」 | 1979年から使用。DiMarzio HS-3に換装(Duck/Play Loudはオリジナル改造機)。スキャロップ加工済みのメイプル指板 |
| シグネチャーギター | Fender YJM Stratocaster | スキャロップ指板・YJM Fury PU・ブラスナット・Dunlop 6000フレット・ビンテージトレモロ |
| ピックアップ | Seymour Duncan YJM Fury(スタックシングル) | ハムキャンセリング。中域の切れと高出力を両立。かつてはDiMarzio HS3を使用 |
| 弦 | Fender Super Bullets(カスタムゲージ .008-.011-.014-.022-.032-.046) | 高弦は超細く、低弦は太め。「太い音と曲げやすさを両立」するための独自ゲージ |
| ピック | Dunlop YJM Custom Delrin 1.5mm(ホワイト) | 非常に硬い。前腕の回転エネルギーを効率よく伝える |
| アンプ | Marshall YJM100 シグネチャーヘッド | ヴィンテージマーシャルJMP Superleadをベースに開発。variac使用(90〜100V)で自然な圧縮感を得る |
| アンプ設定 | Presence 7〜8 / Bass 5〜6 / Middle 4〜5 / Treble 6〜7 | 最大音量・ギターボリューム全開が基本。ダイナミクスはピッキングの強弱で制御 |
| オーバードライブ | DOD 250 / YJM308 | アンプへのブースターとして使用。信号を変色させず音量を押し上げる |
| ディレイ | MXR Carbon Copy / TC Electronic | 深めの残響でソロに深みを加える |
| ナット | ブラスナット | サスティンと明るさの両立。標準の骨・プラスチックナットより音の立ち上がりが速い |
イングヴェイトーンを最小コストで近づける方法
ヴィンテージに忠実なイングヴェイのフルリグは1万5000〜2万5000ドルかかるが、2000ドル以下で85%のトーンを実現できるというのが専門家の試算です。
| 目標 | 推奨機材 | 価格帯(目安) |
|---|---|---|
| 自宅・宅録で近いトーン | Marshall DSL20HR(アッテネーター付き) | 約11万円 |
| デジタルで手軽に | Kemper / Line 6 Helix(YJMプロファイルあり) | 約20〜25万円 |
| ギター | Fender YJM Stratocaster シグネチャー | 約22万円前後 |
| ピックアップのみ交換 | Seymour Duncan YJM Fury(既存Stratに搭載) | 約3万円 |
元バンドマンが思う「イングヴェイから学ぶべきこと」
速さだけを追いかけていた時期が私にも長くありました。でも今は違う見方をしています。
イングヴェイが40年以上、同じギター・同じアンプ・同じピックで弾き続けている事実が、最も大きなメッセージです。「壊れていないものを直すな」という哲学。自分の音を見つけたら、あとは深めていくだけでいい。
再開を考えているあなたへ——技術の話は後でいい。まず弾き始めることの方が大事です。速さはいつでも追いかけられます。でも今日弾かないと、今日の感触は永遠に取り戻せません。
よくある質問(FAQ)
Q1. イングヴェイ・マルムスティーンのピッキング技術を習得するには何ヶ月かかりますか?
A. 前腕の回転運動と下向きスラントの感覚を掴むまでに、通常3〜6ヶ月が目安です。特にスキャロップド指板への移行を同時に行う場合は、最初の1ヶ月で音程が不安定になることを覚悟してください。
Q2. イングヴェイのシグネチャーストラトはなぜ弦ゲージが特殊なのですか?
A. 高弦(.008〜.014)を極細にすることでチョーキングとビブラートを容易にしつつ、低弦(.022〜.046)はやや太めにして音の厚みを確保しています。これによりリードプレイのしやすさとリズムの音圧を両立させています。
Q3. イングヴェイのアンプにvariagを使う理由は何ですか?
A. 通常120Vで使用するMarshallを90〜100Vに落とすことで、自然な圧縮感と早いブレイクアップ(歪みはじめ)を得るためです。音量を抑えながらもアンプのキャラクターを最大限に引き出す手法で、スタジオでは特に有効です。
Q4. スキャロップド指板はイングヴェイ以外のスタイルにも使えますか?
A. 使えますが、適応に時間がかかります。フィンガリングの力加減が通常と大きく異なるため、ブルース・クラシックロック系のプレイヤーにはメリットが少ないケースもあります。ビブラートとベンドの表現力を最大化したいプレイヤーに特に向いています。

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